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StudioLife公演「PHANTOM THE UNTOLD STORY」初日レポート!!

PHANTOM

ガストン・ルルーの傑作『オペラ座の怪人』に登場した怪人・ファントム。 悪魔のような容姿と天使のような歌声を兼ね備えたファントムことエリック の、これまで語られることのなかった数奇な人生を描いたのが、イギリスの 女性作家スーザン・ケイによる小説『PHANTOM』だ。その繊細にして圧倒 的な原作の魅力に打たれ、劇団スタジオライフが2011年・2012年にかけて初 の舞台化。そして2015年、劇団30周年という節目の年に『PHANTOM THE UNTOLD STORY Part I~The Unkissed Child~』『PHANTOM THE UNTOLD STORY Part II~The Kiss of Christine~』と銘打ち、11月11日(水)より東京・新 宿のシアターサンモールにて念願の連続上演を果たす。

『Part I~The Unkissed Child~』 世界中の俳優が誰しも一度は演じたいと熱望する孤高の怪人・ファントム。フランス人作家ガストン・ルルーが生み出した稀代の ダークヒーローはいかにして生まれたか。『Part I~The Unkissed Child~』では、ファントムことエリックの少年期から青年期にス ポットが当てられている。上下巻700頁超の大作の舞台化。時代もロケーションも次々と移り変わる壮大な一代記を、間口9.6m奥 行9.0mの小劇場で再現するのは決して簡単なことではない。しかし、それを実現させたのが、脚本・演出の倉田淳が「氏の映像技 術が不可能を可能にする」と惚れ込んだ気鋭の映像プランナー、マット・キンリーによる世界最高峰のクリエイションだ。 舞台 上に設えられたのは、紗幕素材の舞台装置のみ。ここに陰影に富んだマット・キンリーの映像美が投射されることで、舞台は瞬く 間に世界を変える。それは時にエリックの生家に、時に闇深き最果ての森に、時に月の見える屋上庭園に。まるでエリックの辿っ た16年間を追体験しているかのようだ。中でも特筆すべきは、エリックの母・マドレーヌが訪れた教会の美しさ。ステンドグラス の鮮やかでありながら荘厳な彩りには思わず息を呑んだ。スタジオライフではおなじみの竹原典子の衣装と共に、19世紀のフラン ス、スペイン、そしてローマの世界に陶酔することができるだろう。


役者陣の熱演にもぐいぐい惹きこまれる。特にエリックを演じた山本芳樹は、劇中、ほぼすべての場面で仮面を装着しての演技と なる。舞台俳優にとって、表情を制限されることは、片翼を奪われるようなもの。しかし、山本はその巧みな声遣いと全身の表現 で劇場を支配した。中盤、自らを凌辱しようとする見世物小屋の興行師・ジャベールと対峙する場面は、圧巻の一言。「僕は死の 弟子になる。殺人こそこれから習得しなければならない唯一の芸術なのだ」と謳う長い独白は、ほとばしる狂気が一種異様な輝き を帯びていた。それでいて、終盤、石職人の親方・ジョヴァンニとの平穏な暮らしの中では、虚静恬淡とも言える穏やかな声色で、 束の間の幸福に身を置くエリックの安らぎを表現。それゆえに後に起こる悲劇の憫然さが一層際立っていた。 醜い容姿に生まれたがために「化け物」と謗られ、迫害を受け続けるエリック。しかし、大衆が彼を罵るたびに、本当の「化け物」 はどちらなのか、観客は問いかけの刃を向けられているかのような錯覚に陥る。エリックは「僕だってみんなと同じ人間なんだ」 と叫ぶ。彼はただ、ひとりの人間として愛されたかっただけなのだ。しかし、くちづけを乞うても母は拒み、人並みの愛さえ与え られず、エリックは闇の中を生きた。そして、ようやく見つけたジョヴァンニとの安息もまた、暴走する愛の手で打ち壊された。 人は、みな怪人となる可能性を持っている。現代よりも100年以上前の物語だが、愛に飢え、愛に怯えるエリックの孤独と苦悩 は、現代社会の片隅で生きる多くの人々の胸を突き刺すはずだ。 『Part I~The Unkissed Child~』は、ファントムの黒きマントに 身を包んだエリック、そして闇から浮かび上がるクリスティーヌの姿と共に幕を閉じる。愛という名の幻影を求め彷徨うエリック の旅路の果ては――高揚感たっぷりの中、劇場は現実世界へと戻る。その瞬間、この再演でスタジオライフが2部作連続上演を決 行した意味を存分に理解することとなるだろう。

『Part II~The Kiss of Christine~』 怪人・ファントムの「エピソード・ゼロ」というべき本作。第2部となる『Part II~The Kiss of Christine~』では、よりその色が明 確に打ち出されていた。青年へと成長したエリックは、その類い稀な建築の才能を発揮し、ついにオペラ座建築に取りかかる。か HP http://www.studio-life.com/ ガストン・ルルー作「オペラ座の怪人」を元に書かれたスーザン・ケイ作「PHANTOM」 『PHANTOM ~THE UNTOLD STORY』 ついに開幕!! オペラ座の怪人エリックの人生を2部作で上演 【ご掲載のお願い/ StudioLife公演「PHANTOM THE UNTOLD STORY」初日レポート】ページ 2 の有名なオペラ座の地下水路はなぜ誕生したのか。随一の名場面と謳われるシャンデリア落下のシーンを、小劇場でどのように表 現するのか。『オペラ座の怪人』をよく知る者ならば、思わず膝を打ちたくなるようなエピソードや演出が本作では随所に散りば められている。

また、世界的映像プランナーであるマット・キンリーの映像美術も秀逸だ。豪華絢爛な装飾が施されたバロック建築の美しさを、 細部にまで神経が行き届いた精緻な描写で再現。悲しき愛と殺戮の舞台を、華やかに彩った。さらに、オペラ座の支配人・ポリー ニが初めてファントムを目撃する場面では、この映像技術がなければ決して成立しなかったと断言できる極上の演出が用意されて いる。ファントム誕生を決定づける象徴的な重要なシーンを、スタジオライフは独創的なトリックで見事に観客に印象づけた。他 にも、地下水路を渡る小舟や、オペラ座の屋上にそびえ立つ女神像など、その瞬間瞬間を瞼の裏に焼きつけておきたくなるような 名場面が続く。これだけでも一見の価値ありと胸を張れる幻想的な舞台演出の数々は、スタジオライフの真骨頂と言えるだろう。 エリックの生涯は、逃れられない宿命との戦いだった。生まれた土地を捨て、何度人生をやり直そうと試みても、その醜い顔はま るで眼前に鏡を突き立てるように、エリックの前に立ちはだかる。そのたびに、これまで出会った様々な人々が耳元で呪詛のよう にささやく。エリックが己の宿命を振り払うためには、漆黒のマントに身を包み、地下に身を潜め、怪人と化すしかなかったの だ。

だが、そんな中でも救済として残されているのが、唯一の親友・ナーディルや恩師・ギゾ教授の存在だ。どれほど孤独の果てにい ると思っても、必ず手を差し伸べてくれる人はいる。遠くで幸せを祈ってくれている人がいる。彼らの存在は、エリックのみなら ず、観る者にもひとかけらの希望を与えてくれるはずだ。

この2部作では、Part1で『~The Unkissed Child~』(されなかったママのキス)、Part2で『The Kiss of Christine』(クリスティーヌ のキス)という副題が添えられている。エリックが波乱に満ちた生涯で願い続けたことは、ただひとつ。誰かから愛されること、 それだけだった。その醜悪な容姿ゆえ、母・マドレーヌから愛されることのなかった少年が、青年となり、壮年となり、その手を 血の色に染めても、求め続けたのは、純真無垢な愛、ただひとつだけ。しかし、人から愛されなかったがため、エリックもまた人 を愛することがどういうものかわからなかった。美しき娘・ルチアーナの求愛に応えられなかったのも、一度は掴みかけたクリス ティーヌの心が離れたのも、愛を乞い、愛を恐れるエリックの狂気ゆえ。長く闇の中にいたエリックにとって、クリスティーヌの 輝きはあまりに眩しすぎたのだ。だからこそ、最後にクリスティーヌから贈られるプレゼントは、尊く美しい。仮面を外し、愛す る者に身を預けるエリックの後ろ姿に、きっと多くの者が胸を掴まれることだろう。 『PHANTOM THE UNTOLD STORY』は、一途に愛を求め続けた男の絶望と希望の物語だ。(文/横川良明)

11月11日よりシアターサンモールにて上演中。詳細は、公式HPにて。

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INFOMATION

●『PHANTOM~THE UNTOLD STORY』

原作:スーザン・ケイ[PHANTOM]

脚本・演出:倉田淳

美術・映像:マット・キンリー

照明:ニック・シモンズ

<公演日程>
2015年11月11日(水)~12月7日(月) シアターサンモール

<チケット料金(全席指定・税込)>
一般:A席6,000円/B席5,800円/C席5,600円
club LIFE会員:A席5,600円/B席5,400円/C席5,200円
学生:3,000円(前売(当日精算)・当日共)

公式HP:http://www.studio-life.com/stage/phantom2015/



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